悪人


原作は未読。映画が先か本が先かで迷っていたら公開しちゃったので先に映画を観ることに。公開してすぐの日曜レイトで観てきた。アリエッティのときはレイトでもほぼ満席だったのに、悪人は空席がかなり目立っていて、夏休み明けだしやっぱり重い内容だからとっつきにくいのかなあ。

映画は、とても良かった。良かった、というか、すごかった。吉田修一が脚本に名前を連ねていたのでかなり丁寧に注意して原作の雰囲気そのままに映画化したというのがよくわかる。で、すごかったのだけど、ずっとぼんやりしてしまった。というのも、舞台や登場人物があまりにリアルなのが悲しくて、途方に暮れながら見守るしかなかったから。誰かに感情移入するよりも地方の田舎の閉塞感や家族の負の連鎖、いまどきの若者の乾いた感じ、孤独……、と言葉にすると唇寒しなんだけど、それらに圧倒されてしまったし、未来まで悲しくなってきたから。でもこの世の果てのような灯台の風景と二人の笑顔を見たら、よどんでたまっていたものが流されたような気もした。あの瞬間は確かに幸福だったんだよなあ。

役者は全員ほんとうに素晴らしくて、モントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞した深津絵里はいわずもがな、妻夫木聡もイケメン俳優がコスプレしてる様子はいっさいなく実際に居そうだったし、岡田将生満島ひかりのいまどきの若者感もすごくぴったりだった。柄本明は当然うまいし、疲れた平凡な主婦をやらせたら抜群の宮崎美子、そして樹木希林!独白なんてないのに、目や身体全体から発せられるものがすさまじかった。宮崎美子と樹木希林、二人の主婦の登場シーンは生エビをむいたり魚をおろしていて、生々しく臭いまで届いてきそうで、そういうのも妙にリアルだった。

エンドロールがとても短いのでまだまだ余韻が残りまくっているところに場内の明かりがついてしまって、あと10分でいいから電気つけないでそのままにしておいて…!と思ったし、帰り道でもまだじわじわ涙が出てきてしまった。よくある感動映画で泣ける音楽が鳴り響いて泣ける演出があってそこでパブロフの犬状態で泣いてしまう、ではなくて、じわじわと深い感動がおしよせてきて涙が出てしまう。そんな映画だった。またじっくり落ち着いて観たいけど、かなりダメージをうけたので回復するまで時間がかかりそう。